日本の日本語学校、日本語教育レベルに関する基準が新設されるようです

 みなさま、こんばんは。

 数日前(2019年4月17日)、朝日新聞や読売新聞のウェブサイトに、日本の日本語学校を修了する外国人留学生が日常会話レベルの日本語試験に合格する基準が新設されるようである、という記事が掲載されたようです。

朝日新聞や読売新聞で取り上げられたようです

 朝日新聞の記事は、下記の記事のようです。

https://digital.asahi.com/articles/ASM4K56FSM4KUTIL03B.html

教育水準低い日本語学校は生徒受け入れ禁止 基準改正へ

 読売新聞の記事は、下記の記事のようです。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20190417-OYT1T50201/

「日常会話」7割以上合格…日本語学校に新基準

 すみません、読売新聞の上記の記事は、読売新聞の購読者限定の記事のようですので、読んでいません。

  多くの記事と同様、2、3年後には朝日新聞の上記の記事もウェブサイトで読めなくなってしまう可能性が高いのではないかと思われること、そして、記事を書いた朝日新聞の記者の方が誤解を招きかねない表現を記事中に使われていたようであることを詳しく説明したいということがあるので、下記に記事を引用しておきます。

 急増をしている日本語学校をめぐり、文部科学省有識者会議が17日、「修了した外国人留学生の7割が、日常会話レベルの日本語能力試験に合格できる」という基準をまとめた。3年連続で満たさない学校については、国が生徒の受け入れを禁止するなどの措置を取れる。今後、日本語学校を所管する法務省パブリックコメントを経て、基準を改正する。
 日本語学校は開校する際には年間授業数などの要件を満たす必要がある。また、生徒の出席率や不法残留者などの割合が基準を満たさない場合は、留学生の受け入れができなくなる。だが、継続的にチェックする仕組みがないうえ、教育水準がバラバラなため、就労目的の留学生の受け入れ先として悪用されているケースもある。
 このため、今年4月に始まった外国人労働者の受け入れ拡大に向けて政府がまとめた総合的対応策は、管理の強化を明記。出席率や不法残留者率といった基準の厳格化に加え、新たに日本語能力試験の合格率で判断する基準を追加することになっていた。
 文科省有識者会議は、日本語能力について、言語力の達成度を比較するために使われる「欧州言語共通参照枠(CEFR)」のうち、6段階で下から2番目の「A2」を達成できた修了者が、7割以上であることを基準とした。「A2」は「簡単な日常的な事柄の情報交換ができる」レベル。3年連続で7割を下回った学校はまず国が改善するよう指導し、対応しない場合は受け入れ禁止にするか判断する。 

記事に『日常会話レベルの日本語能力試験』と書かれていたことによるちょっとした混乱

  朝日新聞の上記の記事、(登録しないと読めない)後段の箇所にはCEFRという基準を活用した試験を行う、ということが書かれている一方で、冒頭近くの箇所では『日常会話レベルの日本語能力試験』とも書かれているようであり、そのようなことがあったために、日本語教育をご専門とされる日本語教師の方々の間で、ちょっとした混乱が起きたようです。

 問題の表現は、『日常会話レベルの日本語能力試験です。

 多くの日本語教育関係者の方々、特に日本語教師の方々にとって、「日本語能力試験」というのは、国際交流基金と日本国際教育支援協会が実施している試験

https://www.jlpt.jp/

日本語能力試験 JLPT

を指すようであり、上記のウェブサイトに公開されているサンプル問題をご参照いただくとおわかりいただけるかと思いますが、日本語能力試験は会話や記述の試験はありません。日本語能力試験は主に日本語に関する理解能力や知識をマークシート方式で判定を行う試験であり、会話能力や文や文章を記述する能力等の判定が難しいということが言えるのではないかと思われます。

 朝日新聞の記事に「日本語能力試験」とあったためでしょうか、会話能力も含めた日本語の能力を判定する試験を基準にするということではなく、現行のマークシート方式の日本語能力試験を基準として行うことになっているようだ、という情報が一部の日本語教育関係者の方々に広まってしまったようです。実際、以前の朝日新聞や他メディアの報道では、現行のマークシート方式の日本語能力試験を基準とする、というような内容の報道がされていたこともあり、ちょっとした混乱が起きてしまったのではないかと思いました。

 冒頭近くの『日常会話レベルの日本語能力試験』という箇所、「基本的なレベルの会話能力の判定も含めた日本語(の)試験」ぐらいの表現であれば、たぶん誤解される可能性は低かったのではないかと思っています。もちろん、「欧州言語共通参照枠(CEFR)」の2番目のレベルに相当するA2という基準を「基本的なレベル」と表現してよいのかどうかは議論があるところかもしれませんが、CEFRの理念や基準、日本語教育に馴染みがない新聞読者にとっての理解しやすさも考えると、そのぐらいがちょうどいいのではないかと考えています(が、みなさまはいかがお考えでしょうか)

一部の日本語学校関係者の方々による反発の声

 一部の日本語学校関係者の方々から、日本政府が(日本語学校業界への広範な呼びかけもなく、多数の日本語学校関係者に相談もなく)一部の日本語学校関係者の方々や一部の有識者の方々の知見に基づき(その一部の学校関係者からすれば、勝手に)基準を定めようとしているということで、反発の声が上がっているようです。

  もしかしたら、今後メディアなどの取材や日本語学校業界団体の公式見解等でそのような反発の声や反対意見が公開されることがあるかもしれません。

 しかし、もし仮に一部の日本語学校関係者の方々から、反発の声や反対意見が上がっているのが事実であるなら、30年来、業界独自に自主的にルールを定めて日本語学校業界を律してきたわけでもなく、業界の自主改善もできなかった日本の日本語学校業界の方々にそのようなことを言う権利はあるのかということが問われるのではないか、と思われます。

日本の日本語学校日本語教育レベルの基準設定は必要

 30年来、日本の日本語学校日本語教育レベルの基準は定められてきませんでした。日本の法律では日本語学校日本語教育レベルに関して規定されているわけではなく、日本語学校業界で自主的にルールを定めて律してきたわけでもなかったようです。それぞれの日本語学校が独自に自校の日本語教育を決めてきたということのようで、教育レベルが高い学校もある一方で、教育レベルが低い学校もあるようです。

 日本語学校の学費はだいたいどの日本語学校でも1年間にだいたい60万円から70万円を超える金額の範囲のようであり、富裕層出身ではない大半の外国人私費留学生にとってはもちろんのこと、日本人からみても、それほど安いとは言えないであろう金額なのではないかと思います。それにもかかわらず、2年前後、または、1年半程度、日本語学校に在籍している外国人私費留学生(残念なことに、ベトナム人私費留学生に顕著なようなのですが)の多くは、中途半端な日本語能力しか身に付けられないというのが実情のようであり、良質な教育を受けられる大学や専門学校に進学できる留学生や日本語能力と専門的な能力で活躍できる外国人は少数のようです。

 先月(2019年3月)以降、大人数の失踪留学生を出したこと等で多くのマスコミに報道され多数の批判を浴びている東京福祉大学のような学費を支払いさえすれば入学できる大学や学校にやむを得ずに進学する私費留学生も相当な人数にのぼっているようです。そのような日本の日本語学校を取り巻く深刻な状況を改善する一歩として、日本の日本語学校日本語教育レベルの基準設定は必要なのではないか、と考えています。

 朝日新聞の記事にあるように、「欧州言語共通参照枠(CEFR)」の基準を採用することは、文化庁(、または、しかるべき第三者機関、あるいは、優秀な日本語教育専門家の方々を多人数有する国際交流基金など)が会話試験を含む新試験を開発し実施する、というようになるのではないかと推測していますが、現行の日本語理解能力をマークシート方式で判定する日本語能力試験(JLPT)を利用するより、はるかに優れた良い方法なのではないか、と思われます。

 ただ、何らかの事情で「欧州言語共通参照枠(CEFR)」の基準の採用が見送られ、マークシート方式の日本語能力試験(JLPT)を基準に利用することになったとしても、日本語学校日本語教育レベルの基準がまったくないと言っていい現状よりは、相当マシなのではないでしょうか。 

 もし仮に日本の日本語学校の教育レベルの基準として、マークシート方式の日本語能力試験(JLPT)が利用されることになった場合、(当初の)介護の技能実習生の受け入れ基準が参考になるのではないかと考えています。介護の技能実習生受け入れの日本語能力の基準と同様、日本入国前までに日本語能力試験N4合格(か相応の日本語試験で相応レベルの合格)、入学時期から1年後までに日本語能力試験N3合格(か相応の日本語試験で相応レベルの合格)、ぐらいが適当なのではないだろうか、と思います。

 文部科学省が関連情報を公開しているようです

 上述の朝日新聞や読売新聞で報道された日本の日本語学校を修了する外国人留学生が日常会話レベルの日本語試験に合格する基準が新設されるようである件、文部科学省の下記ページに関連情報が公開されているようです。

日本語能力に係る試験の合格率の基準に関する有識者会議の報告について

  上記のページで公開されている資料中の次のPDFファイル

には、『新たな抹消基準として定める留学生の日本語能力に係る試験の合格率等を確認するレベルは、CEFRのA2レベルとする』と明記されているようです。

 早稲田大学日本語教育研究センターの今井新悟氏は、ご自身のブログ

 https://shingo-imai.blogspot.com/2019/03/blog-post.html

の「20190419 文科省が本気になった。」という箇所で、文部科学省の上記の取り組みを取り上げ、高く評価されているようです。

 

 長文、大変失礼しました。お読みいただき、ありがとうございました。

 当エントリーをお読みいただいた方々のご参考になれば幸いです。