長野県の日本語学校でベトナム人元留学生が法定時間を明らかに超過したアルバイトをしていた事件を取り上げた朝日新聞の記事に関して

 みなさま、こんにちは。


 今日(2021年1月31日)の朝日新聞(紙版、東京版)、1面と27面に長野県松本市日本語学校(記事では「専門学校」と記載されていますが、おそらく専門学校を経営・運営する学校法人が経営・運営している日本語学校ではないかと思われるので、当エントリーでは「日本語学校」と記載します)に在籍していたベトナム人留学生が法定時間を明らかに超過する時間のアルバイトを行っていたためにビザの更新ができなかった事件が取り上げられています。


 日本語学校関係者の方々や日本語教育関係者の方々、日本の外国人私費留学生問題にご関心、ご興味をお持ちの方々、紙の新聞を入手できるようでしたら、一連の記事を読むためだけでも、今日、2021年1月31日の朝日新聞は買う価値があるのではないかと思います。デジタル版の記事は下記の記事のようです。

www.asahi.comhttps://www.asahi.com/articles/ASP1Z61F9P1TUTIL05Z.html

学校の車は夜の弁当工場へ 彼らの働き過ぎは誰のせいか

留学生のアルバイト時間が法定時間を明らかに超過していた件

 留学生のアルバイト時間が法定時間を明らかに超過していた件、記事によると、取材を受けたベトナム人元留学生はコンビニ弁当の製造工場2社を掛け持ち、夜通しの労働で毎週約50時間、月200時間を超えてアルバイトを行っていたこともあったようで、そのせいで在留資格(いわゆる留学ビザ)の更新ができなかったようです。取材を受けたベトナム人元留学生によると『学校側が2カ所の工場を紹介し、毎日送迎もしていた』とのことで、学校側もそのことは認めたようです。ただし、留学生のアルバイトが法定時間を明らかに超えていた件に関しては、学校側は繰り返し注意をしていたので留学生の自己責任だと責任を否認したようです。


 しかし、記事の別の箇所には取材を受けた別のベトナム人元留学生の証言も掲載されていて、そのベトナム人元留学生の証言によると、『「学校は休んでもいいが、バイトは休まないでと先生に言われた。」』とのことのようであり、そして、『バイトがきつく、学校の出席率が50%の時もあったが、「先生が出席率を増やしてくれた」という。』というようなことがあったとのことのようです。


 もし実態として上記の証言通りのことがあったということなら、その日本語学校日本語教師、学校職員の方々は、学校側の言いなりになって、留学生がアルバイトの法定時間を明らかに超過することを認めていたというだけではなく、自ら学校の授業よりアルバイトが大事ととれる内容の発言をし、さらには留学生の授業出席率を改変するという違法行為まで行った、ということになるのではないかと思われます。

 

 朝日新聞の記者の方(々)がその日本語学校の校長の方に、留学生の資格外活動のアルバイトが法定時間を明らかに超えていた件に関して取材したところ、『校長は「3台の車を使い、時間帯も乗る子も違うから把握できない。送迎はサービスでやっているだけだ」と答えた。』とのことです。日本語学校関係者の方々がアルバイト先まで留学生の送り迎えまでされていて、そのような言い訳は通用しないのではないでしょうか。

留学生に事実上パスポート預けさせていた件

 長野県松本市のその日本語学校では、在籍する留学生にパスポートを預けさせるということも行っていたようです。記事によると、学校側は『旅券を預かったことについては「希望者の分だけ。なくしたり盗まれたりする留学生もいるからだ」と認めた』とのことです。


 記事によると、『「旅券を自分で持ちたい人は資格更新は自分の責任になる。入管に行くのも資料を作るのも自分で」と説明すると、ほとんどの留学生が自発的に預けると校長は言った。』とのことです。他方、取材を受けたベトナム人元留学生はそのような説明はなかったと否定しています。


 学校側が説明していたのかどうかについて、学校側と元留学生の見解は一致しないようです。それにしても、在籍する留学生の資格更新は、日本語学校がなすべき業務であり、パスポートを預けさせるための条件にしてはならないのではないかと思われるのですが、その日本語学校校長の方のご認識は大きく異なっているようです。記事を読んだかぎりでは、『ほとんどの留学生が自発的に預ける』のではなく、「留学生に事実上パスポートを預けさせていた」と見なすべきではないかと思いました。

留学生のアルバイト先はコンビニ弁当の製造工場

 記事によると、留学生がアルバイトをしていたところはコンビニ弁当の製造工場だとのことです。記事には留学生のアルバイト先と思われる長野県安曇野市のコンビニ弁当製造工場での仕事が終わって工場の外から出てきた留学生(と思われる人物)が写っている写真も掲載されていました。

 

 実は、今回の長野県松本市日本語学校の件にかぎらず、だいぶ前からコンビニエンスストア弁当屋で販売されている弁当の製造工場は外国人私費留学生がアルバイトする職場としてメジャーなところの1つになっていました。数年前から外国人技能実習生の弁当工場での就労が認められるようになり、ほぼ技能実習生に置き換わった工場がある一方で、場所によってはアルバイトの私費留学生を雇っている工場もあるようです。

法定時間を明らかに超過してアルバイトを行う私費留学生が生み出された背景事情

 記事によると、『地方では、深夜もいとわずに働く外国人の留学生は取り合いの状況という』とのことのようで、留学生をコンビニ弁当の製造工場に派遣していた人材派遣会社の幹部は、件の日本語学校について『「留学生は先生が怖いから、先生が送り迎えすると学生が休まない。非常に助かっている」』と話したようです。

 

 続けて、記事では、留学生の資格外活動であるアルバイトによる労働力を便利に利用する業界だけではなく、日本語学校にもメリットがあることが説明されています。

 学校側にもメリットはあるという。多くの日本語学校や専門学校にとって、借金を背負ってくる留学生の授業料の未納や滞納は深刻な問題だ。この派遣会社の幹部は「安定的に働いてもらえば、学校も授業料を徴収できる」と語った。

とのことです。

 

 その背景として、日本語学習よりお金を稼ぐことを優先する私費留学生、私費留学生からの学費を確保したい日本語学校、人手不足に悩みできるかぎり安い賃金で便利に働いてくれる労働力を求める企業の3者それぞれのメリットが(いびつな形ではあるものの)かみ合う構図になっていることが解説され、結果として、(私たちが)コンビニエンスストア弁当屋で買う弁当が当たり前のようにあることからわかるように、『私たちの暮らしや経済活動の一端を支えて』いるのだ、という説明がなされています。

元日本留学関係者としての個人的見解

 記事の内容紹介は以上ですが、個人的な見解を述べておきます。

 朝日新聞の取材に応じたベトナム人元留学生、記事によると、1人は2018年11月に来日、他の取材に応じたベトナム人元留学生についてははっきりと記載がありませんが、おそらく2018年前後か2015年、2016年ぐらいまでには来日していたのではないかと推測しています。

 東日本大震災の翌年(2012年)、翌々年(2013年)に私費留学したベトナム人ベトナム現地の悪質な日本留学会社に「日本でアルバイトをしながら学ぼう」というキャッチフレーズと「日本でアルバイトすると20万円~30万円稼げる」などおよそ実態とはかけ離れた甘い誘い文句で半ば以上騙されるような形で、留学資金が明らかに不足していたにもかかわらず来日した人が少なからぬ人数いて、何年か前まで日本で留学生とは言いかねるような悲惨な境遇でサバイバルせざるをえなかった人もいたようで(現在は少数になりましたが、そのころ来日して今も日本のどこかでサバイバルを続けているベトナム人元私費留学生もいるようです)、そのような人たちには相当同情の余地はあるのですが、2018年にもなって十分な留学資金がないにもかかわらず資格外活動のアルバイトで稼ぐことをあてにしてろくに日本語の勉強もせずに日本へ私費留学するベトナム人の意識の低さは大きな問題なのではないかと思います。

 そのような一部のベトナム人私費留学生の意識の低さも大きな問題であることを前提として、今回の事件は日本語学校側が在籍する留学生のアルバイト時間超過を黙認するどころか、むしろ率先するように留学生に法定時間を超過したアルバイトをさせていたようである点が非常に深刻な問題を提示しているのではないかと思います。日本政府は私費留学生や日本語学校の取り締まりを厳格化するという方向だけではなく、私費留学生の支援もしっかり行っていただきたいと思います。そのようなことがあるので、記事末尾で弁護士の指宿昭一氏がご指摘されていることに同感しました。

 最後になりますが、今回の事件を取材されて日本の日本語学校ビジネスの行き過ぎた実態と私費留学生問題をわかりやすく説得的な記事をまとめられた朝日新聞の記者の方々(平山亜理氏、内田光氏)に感謝申し上げます。ありがとうございました。

関連情報

 学校名の特定にはさほど関心、興味はないのですが、法務省が公表している下記の日本語学校リストに掲載されている長野県にある日本語学校は8校のようで、記事に書かれている情報からかなりの程度候補(?)を絞れるのではないかと思います。

http://www.moj.go.jp/isa/content/930006074.pdf

 

 日本の日本語学校が行っている行き過ぎたビジネス、国際貧困ビジネスの実態にご関心、ご興味をお持ちの方々には下記のエントリーはご参考になるかもしれません。

https://anhsao.hatenablog.com/entries/2016/04/22

「国際貧困ビジネス」としての日本の日本語学校経営に関する一考察

 

 日本語教育に関わっていらっしゃる方々、日本語学校業界関係者の方々、日本の外国人私費留学生問題にご関心、ご興味をお持ちの方々にとって、ご参考になったようであれば、幸いです。

 長文、大変失礼しました。

 お読みいただき、ありがとうございました。