長野県の日本語学校でベトナム人元留学生が法定時間を明らかに超過したアルバイトをしていた事件を取り上げた朝日新聞の記事に関して

 みなさま、こんにちは。


 今日(2021年1月31日)の朝日新聞(紙版、東京版)、1面と27面に長野県松本市日本語学校(記事では「専門学校」と記載されていますが、おそらく専門学校を経営・運営する学校法人が経営・運営している日本語学校ではないかと思われるので、当エントリーでは「日本語学校」と記載します)に在籍していたベトナム人留学生が法定時間を明らかに超過する時間のアルバイトを行っていたためにビザの更新ができなかった事件が取り上げられています。


 日本語学校関係者の方々や日本語教育関係者の方々、日本の外国人私費留学生問題にご関心、ご興味をお持ちの方々、紙の新聞を入手できるようでしたら、一連の記事を読むためだけでも、今日、2021年1月31日の朝日新聞は買う価値があるのではないかと思います。デジタル版の記事は下記の記事のようです。

www.asahi.comhttps://www.asahi.com/articles/ASP1Z61F9P1TUTIL05Z.html

学校の車は夜の弁当工場へ 彼らの働き過ぎは誰のせいか

留学生のアルバイト時間が法定時間を明らかに超過していた件

 留学生のアルバイト時間が法定時間を明らかに超過していた件、記事によると、取材を受けたベトナム人元留学生はコンビニ弁当の製造工場2社を掛け持ち、夜通しの労働で毎週約50時間、月200時間を超えてアルバイトを行っていたこともあったようで、そのせいで在留資格(いわゆる留学ビザ)の更新ができなかったようです。取材を受けたベトナム人元留学生によると『学校側が2カ所の工場を紹介し、毎日送迎もしていた』とのことで、学校側もそのことは認めたようです。ただし、留学生のアルバイトが法定時間を明らかに超えていた件に関しては、学校側は繰り返し注意をしていたので留学生の自己責任だと責任を否認したようです。


 しかし、記事の別の箇所には取材を受けた別のベトナム人元留学生の証言も掲載されていて、そのベトナム人元留学生の証言によると、『「学校は休んでもいいが、バイトは休まないでと先生に言われた。」』とのことのようであり、そして、『バイトがきつく、学校の出席率が50%の時もあったが、「先生が出席率を増やしてくれた」という。』というようなことがあったとのことのようです。


 もし実態として上記の証言通りのことがあったということなら、その日本語学校日本語教師、学校職員の方々は、学校側の言いなりになって、留学生がアルバイトの法定時間を明らかに超過することを認めていたというだけではなく、自ら学校の授業よりアルバイトが大事ととれる内容の発言をし、さらには留学生の授業出席率を改変するという違法行為まで行った、ということになるのではないかと思われます。

 

 朝日新聞の記者の方(々)がその日本語学校の校長の方に、留学生の資格外活動のアルバイトが法定時間を明らかに超えていた件に関して取材したところ、『校長は「3台の車を使い、時間帯も乗る子も違うから把握できない。送迎はサービスでやっているだけだ」と答えた。』とのことです。日本語学校関係者の方々がアルバイト先まで留学生の送り迎えまでされていて、そのような言い訳は通用しないのではないでしょうか。

留学生に事実上パスポート預けさせていた件

 長野県松本市のその日本語学校では、在籍する留学生にパスポートを預けさせるということも行っていたようです。記事によると、学校側は『旅券を預かったことについては「希望者の分だけ。なくしたり盗まれたりする留学生もいるからだ」と認めた』とのことです。


 記事によると、『「旅券を自分で持ちたい人は資格更新は自分の責任になる。入管に行くのも資料を作るのも自分で」と説明すると、ほとんどの留学生が自発的に預けると校長は言った。』とのことです。他方、取材を受けたベトナム人元留学生はそのような説明はなかったと否定しています。


 学校側が説明していたのかどうかについて、学校側と元留学生の見解は一致しないようです。それにしても、在籍する留学生の資格更新は、日本語学校がなすべき業務であり、パスポートを預けさせるための条件にしてはならないのではないかと思われるのですが、その日本語学校校長の方のご認識は大きく異なっているようです。記事を読んだかぎりでは、『ほとんどの留学生が自発的に預ける』のではなく、「留学生に事実上パスポートを預けさせていた」と見なすべきではないかと思いました。

留学生のアルバイト先はコンビニ弁当の製造工場

 記事によると、留学生がアルバイトをしていたところはコンビニ弁当の製造工場だとのことです。記事には留学生のアルバイト先と思われる長野県安曇野市のコンビニ弁当製造工場での仕事が終わって工場の外から出てきた留学生(と思われる人物)が写っている写真も掲載されていました。

 

 実は、今回の長野県松本市日本語学校の件にかぎらず、だいぶ前からコンビニエンスストア弁当屋で販売されている弁当の製造工場は外国人私費留学生がアルバイトする職場としてメジャーなところの1つになっていました。数年前から外国人技能実習生の弁当工場での就労が認められるようになり、ほぼ技能実習生に置き換わった工場がある一方で、場所によってはアルバイトの私費留学生を雇っている工場もあるようです。

法定時間を明らかに超過してアルバイトを行う私費留学生が生み出された背景事情

 記事によると、『地方では、深夜もいとわずに働く外国人の留学生は取り合いの状況という』とのことのようで、留学生をコンビニ弁当の製造工場に派遣していた人材派遣会社の幹部は、件の日本語学校について『「留学生は先生が怖いから、先生が送り迎えすると学生が休まない。非常に助かっている」』と話したようです。

 

 続けて、記事では、留学生の資格外活動であるアルバイトによる労働力を便利に利用する業界だけではなく、日本語学校にもメリットがあることが説明されています。

 学校側にもメリットはあるという。多くの日本語学校や専門学校にとって、借金を背負ってくる留学生の授業料の未納や滞納は深刻な問題だ。この派遣会社の幹部は「安定的に働いてもらえば、学校も授業料を徴収できる」と語った。

とのことです。

 

 その背景として、日本語学習よりお金を稼ぐことを優先する私費留学生、私費留学生からの学費を確保したい日本語学校、人手不足に悩みできるかぎり安い賃金で便利に働いてくれる労働力を求める企業の3者それぞれのメリットが(いびつな形ではあるものの)かみ合う構図になっていることが解説され、結果として、(私たちが)コンビニエンスストア弁当屋で買う弁当が当たり前のようにあることからわかるように、『私たちの暮らしや経済活動の一端を支えて』いるのだ、という説明がなされています。

元日本留学関係者としての個人的見解

 記事の内容紹介は以上ですが、個人的な見解を述べておきます。

 朝日新聞の取材に応じたベトナム人元留学生、記事によると、1人は2018年11月に来日、他の取材に応じたベトナム人元留学生についてははっきりと記載がありませんが、おそらく2018年前後か2015年、2016年ぐらいまでには来日していたのではないかと推測しています。

 東日本大震災の翌年(2012年)、翌々年(2013年)に私費留学したベトナム人ベトナム現地の悪質な日本留学会社に「日本でアルバイトをしながら学ぼう」というキャッチフレーズと「日本でアルバイトすると20万円~30万円稼げる」などおよそ実態とはかけ離れた甘い誘い文句で半ば以上騙されるような形で、留学資金が明らかに不足していたにもかかわらず来日した人が少なからぬ人数いて、何年か前まで日本で留学生とは言いかねるような悲惨な境遇でサバイバルせざるをえなかった人もいたようで(現在は少数になりましたが、そのころ来日して今も日本のどこかでサバイバルを続けているベトナム人元私費留学生もいるようです)、そのような人たちには相当同情の余地はあるのですが、2018年にもなって十分な留学資金がないにもかかわらず資格外活動のアルバイトで稼ぐことをあてにしてろくに日本語の勉強もせずに日本へ私費留学するベトナム人の意識の低さは大きな問題なのではないかと思います。

 そのような一部のベトナム人私費留学生の意識の低さも大きな問題であることを前提として、今回の事件は日本語学校側が在籍する留学生のアルバイト時間超過を黙認するどころか、むしろ率先するように留学生に法定時間を超過したアルバイトをさせていたようである点が非常に深刻な問題を提示しているのではないかと思います。日本政府は私費留学生や日本語学校の取り締まりを厳格化するという方向だけではなく、私費留学生の支援もしっかり行っていただきたいと思います。そのようなことがあるので、記事末尾で弁護士の指宿昭一氏がご指摘されていることに同感しました。

 最後になりますが、今回の事件を取材されて日本の日本語学校ビジネスの行き過ぎた実態と私費留学生問題をわかりやすく説得的な記事をまとめられた朝日新聞の記者の方々(平山亜理氏、内田光氏)に感謝申し上げます。ありがとうございました。

関連情報

 学校名の特定にはさほど関心、興味はないのですが、法務省が公表している下記の日本語学校リストに掲載されている長野県にある日本語学校は8校のようで、記事に書かれている情報からかなりの程度候補(?)を絞れるのではないかと思います。

http://www.moj.go.jp/isa/content/930006074.pdf

 

 日本の日本語学校が行っている行き過ぎたビジネス、国際貧困ビジネスの実態にご関心、ご興味をお持ちの方々には下記のエントリーはご参考になるかもしれません。

https://anhsao.hatenablog.com/entries/2016/04/22

「国際貧困ビジネス」としての日本の日本語学校経営に関する一考察

 

 日本語教育に関わっていらっしゃる方々、日本語学校業界関係者の方々、日本の外国人私費留学生問題にご関心、ご興味をお持ちの方々にとって、ご参考になったようであれば、幸いです。

 長文、大変失礼しました。

 お読みいただき、ありがとうございました。

群馬県前橋市、前橋国際日本語学校を経営する綜合プランニンググループが自己破産

 みなさま、こんにちは。

 大変ご無沙汰していますが、みなさまはお変わりなくお過ごしですか。

 

 昨日(2020年12月10日)、NHKニュースで報道されて、日本語学校業界の方々はすでにご存知の方々が多いことかと存じますが、不動産賃貸業の他、日本語学校や飲食店などの経営も行っていた群馬県前橋市の綜合プランニンググループが破産を申請したようです。同グループの日本語学校群馬県前橋市にある前橋国際日本語学校のようです。

 綜合プランニンググループが破産を申請したことを報じるNHKのニュースは下記のニュースです。

https://www3.nhk.or.jp/lnews/maebashi/20201210/1060008319.html

コロナで事業継続断念破産申請へ

 上記のニュースによると、

 「綜合プランニング」は2007年に設立し、不動産賃貸のほか日本語学校や飲食店などを経営し、ことし3月期には6億6000万円の年商をあげていたということです。
 しかし、新型コロナウイルスの影響で日本語学校の留学生が来日できなくなり、学生の確保が難しくなったことや飲食店が休業に追い込まれ、利用客が大幅に減少したことなどから資金繰りに行き詰まり、事業継続を断念したということです。
 ことし3月期の負債総額は30億余りで会社は近く前橋地方裁判所に自己破産を申請するということです。

とのことのようです。

 2020年12月11日のお昼の12時の時点で確認したかぎりでは、綜合プランニンググループのウェブサイト上には自己破産するという情報は公開、記載されていないようです。

 https://www.sogo-planning.com/index.php

綜合プランニンググループ

 

 同グループの日本語学校である前橋国際日本語学校は、前掲の綜合プランニンググループのウェブサイト上の情報等によると、2018年4月に開校した比較的新しい日本語学校のようです。下記が日本語学校のウェブサイトのようです。

https://mijls.jp/school_introduction.html

前橋国際日本語学校

 推測に過ぎませんが、おそらく学校関係者にとっても、学校を経営する綜合プランニンググループが自己破産することになるということは想定されていなかったのではないでしょうか。今年(2020年)10月上旬、日本語教師求人サイトとして有名なウェブサイトの1つである「NIHON MURA(日本村)日本語教師・職員求人情報」に求人を出されていたようです。

https://job.nihonmura.jp/2020/10/09/29474/

前橋国際日本語学校
2020.10.09

 上記の求人情報の備考には、『新入生受け入れに伴う増員募集です』とあるようです。

 

 群馬県民の方々と思われる複数の方々がツイッターフェイスブックなどのSNSで、綜合プランニンググループは手を広げ過ぎていたのではないか、というようなご指摘をされているようですが、詳しいことはよくわかりません。

 

 大変すみません、このエントリーは、2020年12月11日の日本時間のお昼の12時の時点までに収集した情報に基づき、まとめています。その旨、ご了解いただいた上で、ご参照いただければ幸いです。

 よろしくお願いいたします。

〇関連情報

https://www.tdb.co.jp/tosan/syosai/4750.html

倒産情報 株式会社綜合プランニング

 株式会社帝国データバンクの倒産速報記事です。

 

新型コロナウイルスCOVID-19感染拡大の影響で、日本の日本語学校はどのような影響を受けるでしょうか

 みなさま、こんばんは。

 ご無沙汰していますが、みなさまはお変わりなくお過ごしですか。

 

 日本で留学生受け入れに関わっていらっしゃる方々や日本の日本語学校関係者の方々はよくご存知のように、現在(当エントリーが書かれている2020年4月現在)、日本を含む世界各国での新型コロナウイルスCOVID-19感染拡大の影響で、2020年4月に日本へ留学予定だった多くの国や地域からの留学生の受け入れが滞っているようで、いつどのような形で受け入れることができるのかさえも先行き不透明な状態になっているようです。

 

 上記の留学生受け入れストップが一例ですが、今年(2020年)と翌年(2021年)、それ以降、日本の日本語学校業界は非常に厳しい状況に直面せざるをえなくなるのではないか、と考えています。

 世界的な新型コロナウイルスCOVID-19感染拡大の影響で、日本の日本語学校はどのような影響を受けるのでしょうか。新型コロナウイルスCOVID-19感染拡大に関しても不確定な情報も多く、様々な事態が流動的であることもあり、推測や予測に確実性を期すことが大変難しいのですが、限られた知見の範囲で、何点か私見を述べます。

新型コロナウイルスCOVID-19感染拡大の影響が1、2年続けば、日本の日本語学校の数は半数以下に?!

 現時点で公開されている最新データによると、日本で外国人私費留学生を受け入れている日本語学校は、

http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyukan_nyukanho_ho28-2.html

http://www.moj.go.jp/content/001318137.pdf

に挙げられているところのようですが、今後1、2年にわたり新型コロナウイルスCOVID-19感染拡大の影響が続くことになれば、リストに挙げられている数百校の日本語学校の少なくとも半分以上は経営が立ち行かなくなるのではないか、と推測しています。

 日本語教育業界関係者の方々、日本語学校業界関係者の方々によく知られている日本語学校も含めて相当な数の(業界関係者にとっての)有名校や老舗校も経営危機に陥る可能性があるのではないか、とも予測しています。

 そもそも、2011年の東日本大震災以降、日本の日本語学校は、それ以前よりも安易な形での私費留学生受け入れを進めるところが多くなったようです。10年近くの年月、日本各地のそれまで留学生受け入れと無縁と思われていた多くの地方都市に日本語学校がまさしく雨後の筍のように設立され、日本語学校の数も10年前と比べて2、3倍に増加してきたようです。日本語学校バブルだったと形容できるような状況だったと言えるのかもしれません。

 実は、2010年以前にも、学校としての機能を果たしていないように見受けられる日本語学校が相当数存在していたようです。日本語教育や留学生の将来にほとんど関心を持たない日本語学校とは名ばかりではないかと言わざるをえないひどいところも存在していて、大きな事件を起こしたこともあったようです。設立当初は有志の日本語教師の方々が立ち上げられたであろう(日本語学校業界では)老舗校と言われる日本語学校も30年前後の時が経過して、現在は学校事業の継続や学校経営での収益向上が主目的となってしまっているようなところもあるようです。

 そのようなことを考慮に入れますに、日本の日本語学校業界は、日本語学校バブル以前の規模かそれ以下の規模に縮小することになる可能性は高いだろうと思っています。

〇いわゆるブラック日本語学校はけっこうしぶとい

 現在日本語学校に勤務されている日本語教師の方々や留学(生)業界に関わっている方々で、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、いわゆるブラック日本語学校は壊滅し、比較的良心的な日本語学校は(何とか)サバイバルできるだろう、というようなことを(おそらく希望的観測で)表明されている方々がいらっしゃるようなのですが、はたしてそうなるでしょうか。
 いわゆるブラック日本語学校は、少なからぬ年数、意図的に日本語教育の質を落とすことで相応の利潤を得て資金として蓄えているところが少なくないようであり、なりふり構わずサバイバルゲームに勝ち残ろうとすることもあり、そう簡単にはつぶれないのではないかと予測しています(ブラック日本語学校が比較的サバイバルに強く、その多くが新型コロナウイルス感染拡大収束後も生き残ってしまうであろうことは、個人的には残念に思うのですが)。

 〇日本語学校バブル崩壊で多数の日本語教師日本語学校職員の職が消滅?!

 20年前、30年近く前から、日本の多くの日本語学校は、自校の教職員を他業界より相対的に安い給料、待遇で雇用してきたようで、かつては少なからずいたらしき優秀で熱心な教職員を雇い止めしてきた、辞めるように仕向けていたこと等あり、自校や業界を良い方向に状況を変えていくことができる人材はそれほど多く残っていないのではないかと思われます。

 大変残念なことですが、今回の日本語学校バブル崩壊が起きることで、2011年の東日本大震災以降に日本の日本語学校日本語教育や留学生受け入れ業務に新たに関わるようになった日本語教師の方々、学校職員の方々で、勤務されていた日本語学校からいわゆる雇い止めされ日本語教師としてのお仕事がなくなってしまう方々や勤務していた学校を辞めさせられる方々が大勢出てくるのではないかと思います。

  そうならないといいとは思っていますが、日本語学校バブル崩壊で多数の日本語教師、学校職員の職が消滅することになるのではないかということをとても心配しています。

 以前、看護師をしている友人から職場環境や待遇向上のために看護師が行ってきた待遇改善運動のことをお聞きしたことがあるのですが、日本語教師や学校職員としての給料や待遇の向上、地位保全には、看護師の方々が行ってきた待遇改善運動と同様に、当事者である日本語学校に勤務されている日本語教師の方々や学校職員の方々が日本語教師ユニオンなどを通じて粘り強く運動を続けるぐらいしか打開策がないかもしれません。

〇日本の日本語学校の在り方の変化が起こる――オンライン授業と存在意義の変容

 知人の日本語学校関係者の方々からは、現在(当エントリーが書かれている2020年4月現在)、日本語学校業界関係者の間で日本語学校の身売り情報が駆け巡っているようだ、とお聞きしています。様々な欠陥を抱えつつも、30年以上続いてきた日本の日本語学校ビジネスモデルが大きな曲がり角を迎えた、と言ってもけっしておかしくない状況のようです。もしかしたら、日本の外国人私費留学生を受け入れる日本語学校の既存のビジネスモデルは事実上終わりを告げた、と言っても過言ではない状況なのかもしれません。

  そのような大変な状況にある今も、日本語学校に勤務されている日本語教師の方々(やフリーランス日本語教師の方々)でオンラインの授業に取り組もうと尽力されている方々が少なからぬ人数いらっしゃるようで、ツイッターフェイスブックなどのSNSなどで熱心に情報交換や意見交換をされているのを感心させられながら拝見しています。

 (一部の先進的な取り組みを行っている日本語学校を例外として、)日本の日本語学校がオンライン授業や日本語教材のデジタル化などに不熱心だったというのは、日本語学校のことを多少なりとも知っている業界内外の方々には詳しく説明するまでもない事実だと思います。今まで日本の日本語学校がオンライン授業に不熱心だったのは、多々のハードウェア的問題、ソフトウェア的問題に加え、日本語学習者がオンラインで授業を受けて日本語能力を向上させることが可能になってしまうと、日本語学習者が留学生として日本へ留学することをかならずしも必要としないということを示唆してしまい、それが自身のビジネスモデルの否定につながる面がある、ということが大きな理由の1つにあるのではないかと思われます。

 しかし、現在(当エントリーが書かれている2020年4月現在)、日本の日本語学校でオンラインで授業を行うところが実際に増えてきているようです。その背景には、オンライン授業を行うことによって、母国にいる留学予定者や一時帰国して日本に戻れない留学生、日本にいるものの通学がままならない留学生、日本留学エージェント、留学生の家族、諸関係者、からの学費、諸経費返還要請への有効な対応策の1つになり得る、という消極的な要因もあるのではないかとみています。
 すべての日本語学校、すべての留学生が対応できるわけではないとは思いますが、日本語学校によっては、留学生によっては、日本の日本語学校の留学生向け授業でも、オンライン授業を行うことで留学生が日本にいなくても授業を受けられるような環境を構築することが可能になり、そのことにより新しい日本語学習法が確立していき、新しい日本語教育のビジネスモデルも発展していくことになるかもしれません

 日本語学校の既存のビジネスモデルが事実上終わりを告げたという点に関して、もう少し補足しておきます。今後、日本の日本語学校で私費留学生への日本語教育と進学指導の主軸とする従来型モデルの日本語学校は大幅に減少していくのではないでしょうか。すでに明確な目的意識を持ってそのような形での学校経営、運営に取り組まれているところもあるようですが、日本の日本語学校は、日本語教育も含めた留学生への全人的教育、トータルケアを行うことを存在意義とするようになっていくのではないか、と予測しています。

 

 日本語教育に関わっていらっしゃる方々、日本語学校業界関係者の方々、留学(生)業界に関わっている方々にとって、多少なりともご参考になったようであれば、幸いです。

 長文、大変失礼しました。

 お読みいただき、ありがとうございました。

 最後になりますが、現在(当エントリーが書かれている2020年4月現在)、新型コロナウイルスCOVID-19感染拡大が懸念されていて、不安を抱えていらっしゃる方々も多かろうことかと存じます。外出自粛などの要請が短期間で終わり感染拡大も収束に向かえばよいと思うのですが、おそらく世界各地で不安定な日々が相当長期間続くことになるのではないかと思います。感染拡大に気をつけつつ、ささやかでも楽しみを持って生活を続けましょう。みなさまのご健康とお幸せをお祈り申し上げます。

東京都区内の老舗日本語学校が非常勤講師に違法残業を強要、労働基準監督署が是正勧告

 みなさま、こんばんは。昨年前半より長らくご無沙汰してしまい、大変失礼しました。

 みなさまはお変わりなくお過ごしですか。

 

 日本の2020年のお正月はもちろんのこと、ベトナムの2020年のお正月の元日も過ぎてベトナムのお正月の4日目に入ってしまい、何とも時期外れのごあいさつではありますが、あらためまして明けましておめでとうございます。

 "Chúc mừng năm mới!"(←ベトナム語の「新年おめでとうございます」)

 今年もよろしくお願い申し上げます。

〇東京都区内の老舗日本語学校が非常勤講師に違法残業を強要

 ツイッターフェイスブック等で多くの日本語学校関係者の方々が話題にされているのをお見かけしていて、日本語教育にご関心、ご興味をお持ちの方々、特に日本語教師の方々はご存知の方々も多いのではないかと存じますが、東京都新宿区にあり(日本語学校業界内では)老舗の日本語学校として知られている千駄ヶ谷日本語教育研究所付属日本語学校を経営する会社が同校に勤務する非常勤の日本語教師に違法残業を強要していたようであることが判明し、新宿労働基準監督署が是正勧告を出したようです。昨日、1月27日には記者会見も行われたようです。

 下記の記事で取り上げられているようです。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200127-00010702-bengocom-soci
「時給は300円くらい」 日本語学校に是正勧告 教員はコンビニバイトとかけもち
https://www.bengo4.com/c_5/n_10702/

「時給は300円くらい」 日本語学校に是正勧告…教員はコンビニバイトとかけもち

 記事には、

1コマ(45分)あたりの給料は教員によって異なるが、勤務4年目の塚越さんで1コマ2010円。授業時間以外にも、採点や学生の面接、授業準備にも時間は割かれる。授業準備に6時間以上かかる場合もあり、給料に反映されない労働時間を含めると「時給300円くらい」だと言う。

というケースや

7時間半に及ぶ遠足の引率は手当として3000円だけが支払われ、本給は支払われなかった。「学校側は『楽しいからいいじゃないか』と仕事と見なしませんでした」

というケースが紹介されているようです。

日本語教師ユニオン

 上記の記事にもありますが、千駄ヶ谷日本語教育研究所付属日本語学校を経営する会社が新宿労基に是正勧告を出された件、昨年(2019年)後半に日本語学校に勤務されている有志の方々によって立ち上げられた日本語教師ユニオンが関わっているようです。
 昨年後半、日本の日本語学校に勤務されている方々が日本語教師ユニオンの設立を進められていて、実際に設立までこぎつけられたようであるようであること、関係者の方々が昨年の日本語教育能力検定試験の会場近くでちらしを配布されていたようであることなどはSNS等を通じて知っていたのですが、実際に千駄ヶ谷日本語教育研究所付属日本語学校に対して粘り強く交渉をされていたことは上記の記事を読むまでほとんど知らず、千駄ヶ谷日本語教育研究所付属日本語学校日本語教師ユニオンの名前が出ている記事とその内容に驚いてしまいました。

〇長年に渡る日本語学校教職員の十分とは思われない給料・待遇問題

 日本の日本語学校業界は、長年に渡り、相当多くの日本語学校が教職員が余裕を持って生活できる給料や待遇を支払うのが困難で、日本語学校の専業教職員であっても生活が成り立つかどうかぎりぎりの給料と待遇で長時間サービス残業している方々が少なからずいらっしゃるという業界事情を抱えてきたようであり、また、長年の間、少なからぬ日本語学校で非常勤日本語教師が(ときには自主的に、ときには強制されて)違法残業や違法持ち帰り残業を行う体制が温存されてきた、ということがあるようです。

 (もう少し詳しいことをお知りになりたい方々は、下記の

https://togetter.com/li/1299571

日本の日本語学校でのサービス残業(違法残業)や無給の持ち帰り採点業務など授業時間外の無給業務に対する向き合い方に関して

もご参照いただければ幸いです。)

日本語教師ユニオン設立と今回の件に関して思うこと

 日本の日本語学校でお仕事されている(されていた)日本語教師の方で

http://nihongo-bdama.net/2019/08/09/nihongokyoshi-hatarakikata/

日本語教師(非常勤)としての働き方
というエントリーを書かれている方がいらっしゃるようです。エントリーに『私は、日本語学校の非常勤日本語教師はコマ給(45〜50分)3,000円以上が妥当ではないか、と思っています』とあるのですが、日本語学校に雇用され働く側のご意見としてはごもっともなのではないかと思い、後日別件でお会いした複数の日本語学校の経営者の方々や管理職の方々にお聞きしてみたところ、いずれの方々も苦々しい表情を浮かべられるのを目撃してしまい、容易ならざる問題だと感じさせられた、ということがあります。

 非常勤日本語教師の賃金向上や違法残業問題に本気で取り組むのなら、日本語教師有志の方々が日本語教師ユニオンか労働組合の活動も行える団体を結成して日本語学校側と交渉することを検討しないかぎり、実現はなかなか困難なのではないか、とも思っていました。

 そのように思っていたこともあり、上記のニュースは広い意味で日本語学校業界、日本語教育業界を活性化することにつながる良いニュースではないかと考えています。

 (もっとも、学校経営者の方々や管理者の方々が非常勤講師の方々に違法残業を強要していたようであることが判明し労働基準監督署が是正勧告を出したというニュースは、日本語学校経営者側の立場の方々にとっては、実におもしろくない内容かもしれないと思わないでもないのですが。そのような方々にほんのお気持ちだけご同情申し上げるとともに、今まで未払いだった教職員の給料や手当などは上記の事件の第2弾、第3弾とならないよう覚悟を決められて快くお支払されたほうがよろしいのではないでしょうか、と申し上げておきます。)

 今回の件が当該校のみならず多くの日本語学校で非常勤の日本語教師の方々へ正当な賃金の支払いが行われるようになるきっかけとなり、そのことと合わせて常勤の日本語教師の方々の給料と待遇向上、ひいては日本の日本語学校業界全体の労働環境改善と日本語教育のレベルアップに結び付けば理想だと思っています。

 みなさまはいかがお考えですか。

〇関連情報

 日本語学校ユニオンのウェブサイトは下記のURLのようです。

https://daigaku-union.jimdosite.com/

日本語教師ユニオン

 ツイッターのアカウントもお持ちのようです。

https://twitter.com/jts_union

日本語教師ユニオンツイッターアカウント

 

 長文、大変失礼しました。

 お読みいただき、ありがとうございました。

日本の日本語学校の日本語教育レベル基準新設等に関する日本語教育関係者の方々のご意見やご見解

 みなさま、こんばんは。いかがお過ごしですか。

 前々回のエントリー

https://ochibohiroi2020.hatenablog.com/entry/235500

日本の日本語学校日本語教育レベルに関する基準が新設されるようです

と前回のエントリー

https://ochibohiroi2020.hatenablog.com/entry/235000

日本の日本語学校日本語教育レベル基準新設等に関して、日本政府によるコメント、意見募集
で取り上げている日本の日本語学校日本語教育レベル基準新設等に関して、(すでにお伝えしている通り、)2019年4月26日から2019年5月27日までの約1か月の期間、日本政府によるコメント、意見の募集が行われているようです。

 再度のご紹介になりますが、パブリックコメントは下記のURLで見ることができます。

https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=315000003&Mode

日本語教育機関の告示基準の一部改正について(意見募集)

 現時点で気がついた範囲に過ぎませんが、日本語教育関係者の方々がブログやNoteなどにご意見やご見解をまとめていらっしゃるようです。

 簡単にですが、ご紹介させていただきます。

〇今井新吾氏のご意見、ご見解

 早稲田大学日本語教育研究センター教授の今井氏はご自身のブログの

https://shingo-imai.blogspot.com/2019/03/blog-post.html

というURL、

20190513 すべては対話からはじまる。対話に参加せよ。対話しない者に未来はない。
20190419 文科省が本気になった。
20190418 今でしょ!

の3か所で、日本の日本語学校日本語教育レベル基準新設に関して直接ご意見やご見解を述べていらっしゃるようであり、また、

20190515 スタンダードじゃダメ。あくまで、参照 Reference!
20190425 JLPTとJFスタンダードは相関しない

では、国際交流基金が提唱しているJF日本語教育スタンダードとCEFRの相違点、日本語能力試験(JLPT)のことなど関連する話題が取り上げられているようです。

 今井氏のご意見、ご見解は明快で、ご教示いただいたことが多岐にわたるのですが、「20190513 すべては対話からはじまる。対話に参加せよ。対話しない者に未来はない。」のQ&A形式で書かれているところの1つ、CEFRのA2レベルという日本語レベルが低過ぎるのではないかという質問に対する回答がわかりやすく書かれていて大変勉強になりました。その箇所を引用しておきます。

 >A2レベルは低すぎませんか?
確かに低すぎる。しかし、1年やってもこの程度に届かない日本語学校があるということだ。そんな日本語学校を存続させてはならない。ひと昔前は、日本語能力試験1級が学部入学の条件だった。それが、いつぞやからN2(旧試験では1級と2級の間)になり、そして今では日本語ができなくても「進学」できる大学や専門学校がある。本当は一年でB2と言いたいところだが、そうすると試験対策に走る学校が出てくる。A2なんぞ、普通に授業をしていれば3か月で到達できる。それさえクリアできない学校はもはや学校とは言えない。だからと言って、A2をクリアしたらいいという話ではない。日本語学校は、当然もっと高みを目指すべきである。だからA2は学校を評価する基準ではない。あくまでも足切りのための最低限の最低限なのだ。

〇神吉宇一氏のご意見、ご見解

 日本語教育学会副会長の神吉氏はnoteにご自身のご意見、ご見解をまとめられているようです。

 https://note.mu/uichi1113/n/n1b7657038e14

日本語学校の質保証とCEFRのA2について(1)

https://note.mu/uichi1113/n/na6c5dcf1df19
日本語学校の質保証とCEFRのA2について(2)

https://note.mu/uichi1113/n/n18770c1f7f09
日本語学校の質保証とCEFRのA2について(3)

 参考になったところもありましたが、わかりにくい表現をあえて使用されているように思われる箇所が散見されて、ご主旨の一部はあまりよくわからなかったというのが率直なところです。

 特によくわからなかった箇所は、いわゆる「偽装留学生」問題に取り上げているところです。

 出井康博氏の記事

https://president.jp/articles/-/28422

8割以上の日本語学校は"偽装留学生"頼み

に関して、『不正確な情報を引用して,もっともらしく書かれた、、』と批判されているようである一方で、そのすぐ後に「」付きで「うそではない記事」と続けて書かれているところが不可解でした。『不正確な情報を引用して,もっともらしく書かれた「うそではない記事」』という箇所は、そのように表現されたご意図がわかりにくいと思いましたし、大変失礼かとは存じますが、日本語表現としてわかりにくいだけではないか、と思ってしまいました。

 その他のこととして、後段で神吉氏は『就労を目的とした,いわゆる「偽装留学生」が存在することは事実であり,その数は少なくありません』と書かれ、続けて『その根本原因は,人手不足の状況にありながら,いわゆる「単純労働者」の受け入れを頑なに認めてこなかった政府の政策決定によるところが大きいと思います。、、』と書かれているようですが、そのご意見に違和感を持ってしまいました。

 神吉氏も書かれているように、現在、日本の日本語学校には、少なからぬ人数の「偽装留学生」がいるようです。そのことは、「偽装留学生」を受け入れてきた日本語学校が少数とは言い難い数存在しているであろうことも意味するものと思われます。そのような見識が低い日本語学校が、十分な留学資金がなく、しかも、その大半は学習意欲や学習能力も低い外国人を私費留学生として受け入れてしまっていることの責任を問われるべきではない、と神吉氏はお考えなのでしょうか。

 その一方で、神吉氏の2番目のエントリーの『日本語学校の教育の質を評価するにあたってCEFRを基準に使うことは,一面妥当性がありそうですが,なぜCEFRなのかについて説明(場合によっては議論)が必要なのではないかと思います』というご指摘やそれに続く論点の提示は、大変参考になりました。

 

 日本語教育関係者として有名なお二方がまとめられたご意見、ご見解を読むことができ、大変勉強になりました。

 

 また、お二方とは別に、ご自身のnoteに

 https://note.mu/e_hirasawa/n/n3ebfbea59712

 日本語教育機関の告示基準の一部改正の提案から、教師に突きつけられたものは?

 というエントリーをまとめられている日本語教師の方もいらっしゃるようです。

今回の改正案、パブリックコメントの受け付けは2019年5月27日まで

 日本の日本語学校の在り方にご関心をお持ちの方々、特に日本語学校教職員の方々、ご自身のご意見やご感想をまとめて、2019年05月27日までにコメントや意見として提出されてみてはいかがでしょうか。パブリックコメントのページのURLを再掲しておきますね。

https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=315000003&Mode

日本語教育機関の告示基準の一部改正について(意見募集)

 

 長文、大変失礼しました。

 多少なりともご参考になれば幸いです。

 お読みいただき、ありがとうございました。

日本の日本語学校の日本語教育レベル基準新設等に関して、日本政府によるコメント、意見募集

 みなさま、こんばんは。日本でお過ごしのみなさま、今年のゴールデンウィーク、10連休はいかがお過ごしでしょうか。

 ご存知の方々も多いことかと存じますが、先日のエントリー

https://ochibohiroi2020.hatenablog.com/entry/235000

日本の日本語学校日本語教育レベルに関する基準が新設されるようです

で取り上げた日本の日本語学校日本語教育レベル基準新設等に関して、2019年4月26日から2019年5月27日までの約1か月の期間、日本政府によるコメント、意見の募集が行われているようです。パブリックコメント、下記のURLに情報が掲載されているようです。

https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=315000003&Mode

日本語教育機関の告示基準の一部改正について(意見募集)

日本の日本語学校日本語教育レベルに関する基準新設

 日本の日本語学校日本語教育レベルに関する基準新設等に関しては、

https://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000186750

という文書に、

(3)留学生の日本語能力に係る試験の合格率等の結果の公表及び地方出入国在留管理局への報告,並びに当該結果が良好でない場合の改善策の報告に係る基準の新設(第1条第1項第45号)教育の質の確保を目的として,各年度の課程修了の認定を受けた者の大学等への進学及び日本語能力に関し言語のためのヨーロッパ共通参照枠(「CEFR」)のA2相当以上のレベルであることが試験その他の評価方法により証明されている者の数について,地方出入国在留管理局へ報告し,公表するとともに,当該者の合計の割合が7割を下回るときは,改善方策を地方出入国在留管理局へ報告することとするもの。 

 という箇所、そして、

大学進学者等及びCEFR・A2相当以上と認められる者の合計の割合が3年連続で7割を下回ったときなどは,同告示から抹消されることとしたもの。

 という箇所があるようです。

 『告示から抹消』という箇所、非常にわかりにくい表現ですが、留学告示別表第1の1の表という日本語教育機関のリストから該当する日本語学校の名前が消される、ということのようです。上記の文書が規定している日本語教育機関というのは、主に私費留学生の受け入れを行っている日本語学校のことのようです。日本の日本語学校関係者の方々にお聞きしているところによると、留学告示別表第1の1の表というリストに掲げてある日本語教育機関から特定の日本語学校の名前が消された場合、(その日本語学校にとって)一番重大な影響はその日本語学校が新規に留学生を受け入れることがほぼ(あまり?)できなくなる可能性がある、ということのようです。

 大ざっぱにざっくり説明しますと、『告示から抹消』されることになった日本語学校は、その時点で受け入れている留学生以外、それ以降、相当な期間にわたり、留学生の受け入れに大きな支障が出るため、経営危機に陥る可能性が高まる、場合によっては学校の存続そのものが危ぶまれる事態にもなり得る、ということで、ご理解いただけるかもしれません。

(大変すみません、当エントリーの『告示から抹消』に関する説明は不十分な箇所があるかもしれませんので、恐れ入りますが、詳細に関して、 出入国在留管理庁在留管理支援部在留管理課、電話番号:0335804111(内線2766) まであらためてご確認いただけますようお願い申し上げます)

出席率報告義務が強化され基準も厳格化、3年連続で「適正校」ではない場合も『告示から抹消』?

 その他の特徴として、日本の日本語学校への出席率報告義務が強化され、基準の厳格化が行われるという内容にもなっているようです。具体的には、日本語学校の全生徒の6か月間の出席率の平均が7割を下回った場合など、『告示から抹消』、つまり、留学告示別表第1の1の表というリストに掲げてある日本語教育機関から名前が消去されるようです。

 もう1点、管轄の地方出入国在留管理局から「適正校」という基準を満たしていないという通知を3年連続で受けた場合に関しても、『告示から抹消』、つまり、留学告示別表第1の1の表というリストに掲げてある日本語教育機関から名前が消去されるということのようです。

 そのような少なからぬ日本語学校の学校経営者の方々や管理職の方々、そして、日本語教師の方々、事務担当者の方々、募集担当者の方々にとっても、相当厳しいのではないかと思われる事項が挙げられているのも、今回の改正案(2019年度の改正案)の特徴の1つなのではないかと考えられます。

今回の改正案、パブリックコメントの受け付けは2019年5月27日まで

 日本の日本語学校の在り方にご関心、ご興味をお持ちの方々、特に日本語学校に関わるお仕事をされている方々、ご自身のコメント、意見をまとめて、2019年05月27日までにコメントや意見を提出されてみてはいかがでしょうか。パブリックコメントのページのURLを再掲しておきます。

https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=315000003&Mode

日本語教育機関の告示基準の一部改正について(意見募集)

 

 長文、大変失礼しました。お読みいただき、ありがとうございます。

 当エントリーをお読みいただいた方々のご参考になれば幸いです。

日本の日本語学校、日本語教育レベルに関する基準が新設されるようです

 みなさま、こんばんは。

 数日前(2019年4月17日)、朝日新聞や読売新聞のウェブサイトに、日本の日本語学校を修了する外国人留学生が日常会話レベルの日本語試験に合格する基準が新設されるようである、という記事が掲載されたようです。

朝日新聞や読売新聞で取り上げられたようです

 朝日新聞の記事は、下記の記事のようです。

https://digital.asahi.com/articles/ASM4K56FSM4KUTIL03B.html

教育水準低い日本語学校は生徒受け入れ禁止 基準改正へ

 読売新聞の記事は、下記の記事のようです。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20190417-OYT1T50201/

「日常会話」7割以上合格…日本語学校に新基準

 すみません、読売新聞の上記の記事は、読売新聞の購読者限定の記事のようですので、読んでいません。

  多くの記事と同様、2、3年後には朝日新聞の上記の記事もウェブサイトで読めなくなってしまう可能性が高いのではないかと思われること、そして、記事を書いた朝日新聞の記者の方が誤解を招きかねない表現を記事中に使われていたようであることを詳しく説明したいということがあるので、下記に記事を引用しておきます。

 急増をしている日本語学校をめぐり、文部科学省有識者会議が17日、「修了した外国人留学生の7割が、日常会話レベルの日本語能力試験に合格できる」という基準をまとめた。3年連続で満たさない学校については、国が生徒の受け入れを禁止するなどの措置を取れる。今後、日本語学校を所管する法務省パブリックコメントを経て、基準を改正する。
 日本語学校は開校する際には年間授業数などの要件を満たす必要がある。また、生徒の出席率や不法残留者などの割合が基準を満たさない場合は、留学生の受け入れができなくなる。だが、継続的にチェックする仕組みがないうえ、教育水準がバラバラなため、就労目的の留学生の受け入れ先として悪用されているケースもある。
 このため、今年4月に始まった外国人労働者の受け入れ拡大に向けて政府がまとめた総合的対応策は、管理の強化を明記。出席率や不法残留者率といった基準の厳格化に加え、新たに日本語能力試験の合格率で判断する基準を追加することになっていた。
 文科省有識者会議は、日本語能力について、言語力の達成度を比較するために使われる「欧州言語共通参照枠(CEFR)」のうち、6段階で下から2番目の「A2」を達成できた修了者が、7割以上であることを基準とした。「A2」は「簡単な日常的な事柄の情報交換ができる」レベル。3年連続で7割を下回った学校はまず国が改善するよう指導し、対応しない場合は受け入れ禁止にするか判断する。 

記事に『日常会話レベルの日本語能力試験』と書かれていたことによるちょっとした混乱

  朝日新聞の上記の記事、(登録しないと読めない)後段の箇所にはCEFRという基準を活用した試験を行う、ということが書かれている一方で、冒頭近くの箇所では『日常会話レベルの日本語能力試験』とも書かれているようであり、そのようなことがあったために、日本語教育をご専門とされる日本語教師の方々の間で、ちょっとした混乱が起きたようです。

 問題の表現は、『日常会話レベルの日本語能力試験です。

 多くの日本語教育関係者の方々、特に日本語教師の方々にとって、「日本語能力試験」というのは、国際交流基金と日本国際教育支援協会が実施している試験

https://www.jlpt.jp/

日本語能力試験 JLPT

を指すようであり、上記のウェブサイトに公開されているサンプル問題をご参照いただくとおわかりいただけるかと思いますが、日本語能力試験は会話や記述の試験はありません。日本語能力試験は主に日本語に関する理解能力や知識をマークシート方式で判定を行う試験であり、会話能力や文や文章を記述する能力等の判定が難しいということが言えるのではないかと思われます。

 朝日新聞の記事に「日本語能力試験」とあったためでしょうか、会話能力も含めた日本語の能力を判定する試験を基準にするということではなく、現行のマークシート方式の日本語能力試験を基準として行うことになっているようだ、という情報が一部の日本語教育関係者の方々に広まってしまったようです。実際、以前の朝日新聞や他メディアの報道では、現行のマークシート方式の日本語能力試験を基準とする、というような内容の報道がされていたこともあり、ちょっとした混乱が起きてしまったのではないかと思いました。

 冒頭近くの『日常会話レベルの日本語能力試験』という箇所、「基本的なレベルの会話能力の判定も含めた日本語(の)試験」ぐらいの表現であれば、たぶん誤解される可能性は低かったのではないかと思っています。もちろん、「欧州言語共通参照枠(CEFR)」の2番目のレベルに相当するA2という基準を「基本的なレベル」と表現してよいのかどうかは議論があるところかもしれませんが、CEFRの理念や基準、日本語教育に馴染みがない新聞読者にとっての理解しやすさも考えると、そのぐらいがちょうどいいのではないかと考えています(が、みなさまはいかがお考えでしょうか)

一部の日本語学校関係者の方々による反発の声

 一部の日本語学校関係者の方々から、日本政府が(日本語学校業界への広範な呼びかけもなく、多数の日本語学校関係者に相談もなく)一部の日本語学校関係者の方々や一部の有識者の方々の知見に基づき(その一部の学校関係者からすれば、勝手に)基準を定めようとしているということで、反発の声が上がっているようです。

  もしかしたら、今後メディアなどの取材や日本語学校業界団体の公式見解等でそのような反発の声や反対意見が公開されることがあるかもしれません。

 しかし、もし仮に一部の日本語学校関係者の方々から、反発の声や反対意見が上がっているのが事実であるなら、30年来、業界独自に自主的にルールを定めて日本語学校業界を律してきたわけでもなく、業界の自主改善もできなかった日本の日本語学校業界の方々にそのようなことを言う権利はあるのかということが問われるのではないか、と思われます。

日本の日本語学校日本語教育レベルの基準設定は必要

 30年来、日本の日本語学校日本語教育レベルの基準は定められてきませんでした。日本の法律では日本語学校日本語教育レベルに関して規定されているわけではなく、日本語学校業界で自主的にルールを定めて律してきたわけでもなかったようです。それぞれの日本語学校が独自に自校の日本語教育を決めてきたということのようで、教育レベルが高い学校もある一方で、教育レベルが低い学校もあるようです。

 日本語学校の学費はだいたいどの日本語学校でも1年間にだいたい60万円から70万円を超える金額の範囲のようであり、富裕層出身ではない大半の外国人私費留学生にとってはもちろんのこと、日本人からみても、それほど安いとは言えないであろう金額なのではないかと思います。それにもかかわらず、2年前後、または、1年半程度、日本語学校に在籍している外国人私費留学生(残念なことに、ベトナム人私費留学生に顕著なようなのですが)の多くは、中途半端な日本語能力しか身に付けられないというのが実情のようであり、良質な教育を受けられる大学や専門学校に進学できる留学生や日本語能力と専門的な能力で活躍できる外国人は少数のようです。

 先月(2019年3月)以降、大人数の失踪留学生を出したこと等で多くのマスコミに報道され多数の批判を浴びている東京福祉大学のような学費を支払いさえすれば入学できる大学や学校にやむを得ずに進学する私費留学生も相当な人数にのぼっているようです。そのような日本の日本語学校を取り巻く深刻な状況を改善する一歩として、日本の日本語学校日本語教育レベルの基準設定は必要なのではないか、と考えています。

 朝日新聞の記事にあるように、「欧州言語共通参照枠(CEFR)」の基準を採用することは、文化庁(、または、しかるべき第三者機関、あるいは、優秀な日本語教育専門家の方々を多人数有する国際交流基金など)が会話試験を含む新試験を開発し実施する、というようになるのではないかと推測していますが、現行の日本語理解能力をマークシート方式で判定する日本語能力試験(JLPT)を利用するより、はるかに優れた良い方法なのではないか、と思われます。

 ただ、何らかの事情で「欧州言語共通参照枠(CEFR)」の基準の採用が見送られ、マークシート方式の日本語能力試験(JLPT)を基準に利用することになったとしても、日本語学校日本語教育レベルの基準がまったくないと言っていい現状よりは、相当マシなのではないでしょうか。 

 もし仮に日本の日本語学校の教育レベルの基準として、マークシート方式の日本語能力試験(JLPT)が利用されることになった場合、(当初の)介護の技能実習生の受け入れ基準が参考になるのではないかと考えています。介護の技能実習生受け入れの日本語能力の基準と同様、日本入国前までに日本語能力試験N4合格(か相応の日本語試験で相応レベルの合格)、入学時期から1年後までに日本語能力試験N3合格(か相応の日本語試験で相応レベルの合格)、ぐらいが適当なのではないだろうか、と思います。

 文部科学省が関連情報を公開しているようです

 上述の朝日新聞や読売新聞で報道された日本の日本語学校を修了する外国人留学生が日常会話レベルの日本語試験に合格する基準が新設されるようである件、文部科学省の下記ページに関連情報が公開されているようです。

日本語能力に係る試験の合格率の基準に関する有識者会議の報告について

  上記のページで公開されている資料中の次のPDFファイル

には、『新たな抹消基準として定める留学生の日本語能力に係る試験の合格率等を確認するレベルは、CEFRのA2レベルとする』と明記されているようです。

 早稲田大学日本語教育研究センターの今井新悟氏は、ご自身のブログ

 https://shingo-imai.blogspot.com/2019/03/blog-post.html

の「20190419 文科省が本気になった。」という箇所で、文部科学省の上記の取り組みを取り上げ、高く評価されているようです。

 

 長文、大変失礼しました。お読みいただき、ありがとうございました。

 当エントリーをお読みいただいた方々のご参考になれば幸いです。